「青い鯨」、南シナ海のもう一つの火種

ベトナムが中国の圧力により南シナ海におけるガス田の掘削作業を中止した7月の事件の記憶が生々しい中、新たな火種が持ち上がっている。エクソンモービルとペトロベトナムによる「ブルー・ホエール(青い鯨)」プロジェクトだ。
クアンナム省沖合の88キロにある海底ガス田、ブルー・ホエールから天然ガスを採掘し、パイプラインでクアンナム省とクアンガス省にある火力発電所まで持ってくる一大事業に要する投資額は200億ドルともされる。グエン・スアン・フック首相は先月末、ベトナムを訪れたエクソンモービル首脳に「トランプ大統領が参加する11月のダナンのAPEC首脳会議に合わせて開始して欲しい」として政府としても支援する意向を鮮明にした。
問題は、ブルー・ホエールが中国が領有権を主張する「九段線」圏内と重なる点だ。APEC首脳会議には、10月の共産党大会で再任したばかりの習近平国家主席(総書記)も参加するはずだ。そのタイミングで係争海域のガス田開発に着手することは中国の目には挑戦と映る。中国はベトナムとエクソンモービルに有形無形の圧力をかけてくるだろう。
ただし7月に掘削を断念したガス田はスペインのレプソルが保有する鉱区だったが、エクソンモービルは米国の石油メジャーだ。さらにブルー・ホエールは今年1月にケリー国務長官(当時)の訪越に合わせて合意した国家プロジェクトでもある。そしてティラーソン現国務長官は、エクソンモービル前CEOだ。中国による脅しを米国も簡単には看過しないだろう。
エクソンモービルが、ブルー・ホエールがあるブロック118で大型のガス田を発見した2011年、中国は「外国企業は係争海域での開発を慎むべきだ」と警告したが、ティラーソン氏が率いたエクソンモービルは各石油会社が手を引く中でもベトナムとの協力を進めたとされる。ティラーソン氏は就任前にも南シナ海問題について「中国に対して、人工島建設を中止すべきとはっきりとしたシグナルを送るべきだ」と主張している。
北朝鮮の核ミサイル開発が深刻化する状況で、米国は中国の協力も必要としているため、事は単純ではない。ブルー・ホエールの行く末は、米国の南シナ海問題への対応を占う試金石になる。