ASEAN外交てこ入れ、指導部が域内歴訪

共産党トップで実質的な国の最高指導者であるグエン・フー・チョン書記長が先週、インドネシアとミャンマーを歴訪し、グエン・スアン・フック首相も先々週にタイを訪れた。指導部による域内主要国の相次ぐ訪問からは、南シナ海での中国に対する姿勢にASEAN内での亀裂が広がる中で、団結を促し加盟国が一致して中国の行動を牽制しようという意図が透ける。
8月上旬のASEAN・中国外相会議では、南シナ海での紛争防止を目的とする「行動規範」の枠組みが承認されたが、ベトナムが強く求めていた「法的拘束力」に関する言及は盛り込まれなかった。さらにASEAN外相会議で議長を務めたフィリピンのカエタノ外相は、会議の共同声明に含まれた「南シナ海での埋め立てに対する一部の国による懸念」という文言について「盛り込みたくなかった」と記者会見で発言し、親中国のラオスやカンボジア、さらにドゥテルテ大統領の就任以降、中国との接近を強めるフィリピンと、ベトナムとの亀裂があらわになった。
ベトナムは7月に南シナ海沖でガス田の掘削作業を中国の圧力で中止し、さらに8月のASEAN外相会議では中国による分断策で、ASEANが結束して中国へ対抗するというベトナムの狙いはくじかれた。一連の歴訪予定がいつ組まれたのかは明らかでないが、南シナ海問題におけるベトナムの「孤独」の深まりとタイミングが符合する。
フック首相とチョン書記長はタイ、インドネシア、ミャンマーいずれの国との首脳会談でも行動規範の早期策定で一致している。
特にインドネシアでは、両国が主張するナトゥナ諸島沖の排他的経済水域(EEZ)の境界画定作業を早期に確定させることで合意し、ナトゥナ諸島沖での違法な漁業の抑制で両国が協力することも明らかになった。同諸島沖で違法操業を続ける中国漁船を意識していることは明らかだ。
大国である中国の海洋進出に対してベトナムは、ASEAN域内の結束と域外の日米印といったプレーヤーを引き込むことで対抗しようとしている。域外諸国で利害の一致している日本の河野外相は就任早々に法的拘束力ある行動規範の必要性を強調した。またゴ・スアン・リック国防相が8月に訪米し、マティス米国防長官との間で2018年に米空母がベトナム寄港することについて合意した。8月中旬にはインドの超音速巡航ミサイル「ブラモス」に送られたと地元メディアに取りざたされた。インド国防相は情報を否定したが、ベトナムへの売却に向けて交渉が進んでいるようだ。さらに8月24日にはオーストラリアのペイン国防相が訪越し、両国間の防衛次官級会合の開催が決まった。
8月に入ってからベトナム外交は慌ただしさを増している。ただ共同声明や報道を読む限り、ASEAN3カ国との間で行動規範策定の期限や法的拘束力の有無について具体的な合意に至った形跡はない。3カ国とも最大の貿易相手国である中国への配慮が必要で、ベトナムも強引には協力を迫れない。一方で南シナ海での軍事施設建設など中国による領有権の既成事実化は進んでいる。中国による切り崩しを乗り越えてASEANをどう結束させるのか。ベトナム指導部による答えはまだ見えてこない。